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「唯一の被爆国」の実体に迫る~濫読日記 [濫読日記]

「唯一の被爆国」の実体に迫る~濫読日記

 

「偽装の被爆国 核を捨てられない日本」(太田昌克著)

 

 著者は共同通信の編集・論説委員。核問題を一貫して追う。「偽装の被爆国」もまた、核戦略をめぐる日本の本音と素顔を、関係者への丹念なインタビューを重ねる中で暴き出した。

 「プロローグ」は、2016年5月27日、米国の為政者トップとして初めて広島市の平和公園、すなわち米軍が投下した原爆の爆心直下にオバマ大統領が立ったシーンから始まる。そこでは、次の言葉に注目する。「原子核分裂を導いた科学的な革命は、道徳的な革命が伴わなければならない」―。そして、すぐにマーク・ゲインの「ニッポン日記」に出てくるあの光景、憲法草案を吉田茂外相らに迫り、しばらくの猶予ののち戻って発した言葉「原子力的な日光の中で日向ぼっこをしていた」というホイットニーGHQ民生局長の言葉へと転換する。

 この展開は、その後の「核」をめぐる著者の視座を明確に表している。広島、長崎で原爆がもたらしたものは、これ以上ない非人道的な惨状ではなかったか。しかし、広島、長崎以降の世界が目指したのは、「非人道性」の克服ではなく、核が生み出した「権力」の追求ではなかったか。そうした時代の中で、では日本はどのような歩みを続けたのか。「唯一の被爆国」という名のもと、核兵器の非人道性を訴えながらも「核の傘」という拡大抑止力を手放せずにいる日本政府は、核政策において素顔と仮面が違うのではないか―。

 オバマ大統領が広島訪問の直前、核の先制不使用宣言を検討したこと、それは日本政府の反対によって見送られたことは、既に報道されており知る人も多い。著者は第二次大戦後の米国の核戦略をトレースする中で、その意味を掘り下げる。学術的にではなく米政府高官らへのインタビューを通じて輪郭を明らかにしていく手法は、臨場感がある。米政権内では、核の先制不使用宣言によって核の傘を失えば日本は独自の核武装に向かう恐れもあるとの議論まであったという。

 そして、核兵器禁止条約をめぐる国連での議論の内幕に迫る。「核の傘」の呪縛から逃れられない日本政府は、最終的に交渉不参加へとかじを切った。背後には米国の影があった。オバマ大統領時代には被爆国の「内政事情」を考慮する声も政権内にあったというが、トランプ大統領の時代になると、日本の交渉参加に対する露骨な嫌悪感だけが聞こえ始めたという。

 著書はさらに、日本の原発政策―増え続けるプルトニウム、NPT非加盟のインドとの原子力協定締結、という被爆者の心情を逆なでする核政策の実体を暴いていく。最後に著者は、被爆者のこんな声を紹介する。

 「日本政府にはもう『被爆国』と名乗らないでほしい」―。

 岩波書店、1700円(税別)。

 

偽装の被爆国――核を捨てられない日本

偽装の被爆国――核を捨てられない日本

  • 作者: 太田 昌克
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/09/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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