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強面・有能な秘書の横顔~濫読日記 [濫読日記]

強面・有能な秘書の横顔~濫読日記


「影の権力者 内閣官房長官菅義偉」(松田賢弥著)

菅義偉.jpg 官房長官は、かつてニュースソースとして匿名で記事化するとき「政府高官」とされた。「政府首脳」に変わったのは後藤田正晴官房長官の時代である。「カミソリ」と呼ばれた元警察庁長官を官房長官に据えた中曽根康弘は「内閣の命を制するものは総理と官房長官である」といっている(「私の後藤田正晴」講談社、2007年)。

 以来、大物官房長官とされた政治家は何人かいる。記憶に残ったのは梶山静六、野中広務あたりであろうか。この書で取り上げた菅義偉は、梶山を政治の師と仰ぎ、野中を目標とした。二人に共通するのは、権力闘争を踏み越えて地歩を固めた、その生きざまにある。では、その生きざまは菅に投影されてきただろうか。

 書はまず、秋田の雪深い地に生まれた菅の若い時代をたどる。高校を出て段ボール工場に働き、苦学して法政大を卒業、一般会社に勤めた後、議員秘書から横浜市議に転身…。約束されたコースを歩む最近の政治家(安倍はその典型であるが)とは、かなり違う。このあたりは梶山の戦争体験、野中の被差別部落出身者としての生い立ちと重なるのであろうか。

 菅は69年に大学に入り、73年に卒業した。70年を境に反安保闘争、大学闘争の嵐が吹き荒れたころである。特に法政大は当時、学生運動の一つの拠点であった。その時代に菅は、学生運動に目もくれずいたことになる。当時としてはかなり特異な学生であっただろう。後に政治家を目指した理由として著者は「社会は政治が動かしているから」との菅の言葉を引用している。言い換えれば、政治家になって社会を動かしたかった、ということであろう。ここには、社会的弱者や底辺にいる人間に共感する中で社会を動かそうというのとは違った視点が見える。権力の階段を上りながら自分の目指す社会の実現を図るという志向が見える。この点で、菅の出身地・秋田の隣県である岩手を地盤とした小沢に似ていなくもない。しかし、小沢がほとんどを東京ですごし、父・佐重喜の跡を継ぎ、田中角栄の庇護のもとに政治家の階段を上ったことを考えれば、菅と小沢は対極の政治家であろう。

 菅は96年の総選挙で横浜市議から国会議員に転身、小渕派(平成研)に入る。しかし、同派で師と仰ぐ梶山は98年に派閥を出、総裁選に単独出馬。菅も梶山の後を追う。これを見て野中は「菅は絶対に許さない」といったという。後に梶山の気遣いで菅は宏池会に入るが加藤の乱に共鳴し決起、敗れた後、安倍晋三の支援に回る。田中角栄が「乱世の将」と評した梶山の行動ぶりなどから、菅は何かを学んでいるように見える。

 では、菅が目標とする野中と菅を比較すると。菅について気になるのは、沖縄に対する政治姿勢である。この点、野中が駐留軍用地特別措置法改正(1997年)に際し、担当の特別委員長として「この法律が軍靴で沖縄を踏みにじることがないように(略)皆さんにお願いしたい」と壇上で述べたような「心」は、いまのところ菅には感じられない。あるいは、辛淑玉との対談「差別と日本人」(角川書店、2009年)で見せたような保守政治家の懐の深さも感じられない。今のところは安倍首相と公明党のパイプが頼りの「強面で有能な秘書」の域を出ていないように思う。

 さて、この書の評価だが、若干360度にフィールドを広げすぎて、焦点がぼけた印象がないでもない。惜しいことだ。

(講談社α文庫、2016年、820円=税別)



影の権力者 内閣官房長官菅義偉 (講談社+α文庫)

影の権力者 内閣官房長官菅義偉 (講談社+α文庫)

  • 作者: 松田 賢弥
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/01/21
  • メディア: 文庫

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