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「文明と人間」を考えさせる~映画「ハドソン川の奇跡」 [映画時評]

「文明と人間」を考えさせる~映画「ハドソン川の奇跡」

 いわゆるアメリカン・ヒーローたちの知られざる内面的葛藤、という意味では、同じクリント・イーストウッド監督の「アメリカン・スナイパー」があった。イラク戦争を舞台に狙撃兵の苦悩を描いたものだけに、その愛国主義的映像に若干うんざりさせられたが、今回は、経験と機転によって飛行機事故から乗客を救った機長の物語。政治的な色彩はなくその分、安心して楽しめる。
 真冬のハドソン川にUSエアウェイズ1549便が不時着水したのは2009115日。その時のようすを記憶している。むしろ、危険を顧みず乗客の救出に向かったNY市民の勇気がメディア上でたたえられた印象が強い。機長はむしろ、最初から最後まで「ヒーロー」であったように思うが、日本での情報は限られている。この映画のような事態があったことは容易に推測できる。
 機長のチェズレイ・サレンバーガー(愛称サリー、=トム・ハンクス)は42年のキャリアを持つベテランである。この日もラガーディア空港を難なく飛び立った。しかし、直後にカナダガンの群れに遭遇。鳥が飛びこんだため、両方のエンジンが同時停止という緊急事態を迎える。高度わずか850㍍。ラガーディア空港に引き返そうとするが、推力不足であきらめざるを得ない。近隣の空港へ向かうのも絶望的な事態だった。下手をすればニューヨークのビル群に激突する。その時、目の前にあったのはハドソン川だった―。コックピットの緊迫したやりとり。高度を下げ、機体を水平に保ちながらの着水。
 機長は、絶望的な状況の中で乗客全員の命を救ったと、たちまち英雄視される。しかし、ここでNTSB(国家運輸安全委員会)の手が入る。飛び立った空港か隣接の空港に着陸することもできたのに、乗客を不要に危険にさらしたのではないかというのだ。飛行42年のベテランは、わずか208秒の機体操作の是非をめぐって罪に問われようとしていた。
 公聴会では、あらゆるシミュレーションが展開された。しかし、シミュレーションはあらかじめシナリオが想定されている。ぎりぎりの局面で判断する、その時間はどこに組み込まれているか。コンピュータにヒューマンファクターはどう組み込まれているか―。それが最終的に問いかけられる。
 この結末は、実は逆のことも言っているように思える。航空機だけでなく、我々はコンピュータの制御によって安全を保障されている。しかし、そこに寄りかかってしまうと思わぬヒューマンエラーを犯すことがある。そうした人間的な過誤は、あらかじめコンピュータに組み込まれているだろうか。人間は時にコンピュータを超えることがあるかもしれないが、コンピュータに寄りかかったために過ちを犯すこともある。そうした「人間と文明」という骨太のテーマが、ここにはあるように思う。クリント・イーストウッド監督は相変わらずうまい。


ハドソン川.jpg


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