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ゴルディオスの結び目~社会時評 [社会時評]

ゴルディオスの結び目~社会時評

 古代の王ゴルディオスが複雑怪奇な結び目を作り、これを解いたものがアジアの覇者になると宣言した。アレキサンダー大王が現れ、剣で一刀両断にし、予言通りアジアの覇者になった。
 この故事をどう解釈するか。
 普通の人間は、まず結び目を解こうとするだろう。アレキサンダーは発想を変えて、一刀両断にしてしまう。誰にも思いつかぬ方法で難問を解いたアレキサンダーはやはり英傑だった―とするのが、一般的な解釈かもしれない。
 内田樹は著書「他者と死者 ラカンによるレヴィナス」の中でこの故事を取り上げた。前後の文脈の中で内田は、難解な思想をどう説くかの答えを導くためにこの故事を使っている。そこでは、「アレキサンダーの剣」は、例えばマルクス主義に代表されるイデオロギーに例えられる。レヴィナスの「よく分からない思考」にマルクス主義的な読みを当てはめ「ブルジョワのシオニスト」と切って捨てるやり方である。たしかに単純明快だが、そこで得るものと失うものと、どちらが多いかをよく吟味する必要がある、と内田は言う。
 さて、米ソ冷戦も終わって30年近くがたとうとしている。いまさらマルクスでもあるまい。では、この故事は世界で起きているどのようなこととつながるのか。
 核兵器開発を進める北朝鮮の動きに、トランプ米政権がいらだっている。シリアの空軍施設を巡航ミサイルで攻撃し、取って返して太平洋上の原子力空母カール・ヴィンソンを朝鮮半島近くに向かわせた。力ではなく賢者の知恵に頼る「戦略的忍耐」を掲げたオバマ政権と違って「力には力」の政策を前面に押し出した感がある。トランプ大統領は、複雑な結び目を一刀両断にした現代のアレキサンダーのように振る舞っている。
 しかし、ゴルディアスの結び目の故事と違うのは、振り回した剣は確実に周囲の犠牲を招くということだ。一説には、韓国で一般市民100万人が犠牲になるというシミュレーションがある。そんなもので済むのだろうか。朝鮮戦争での死者数は400万人と公式に言われている。そのうえで当時と現在の最大の違いは、北朝鮮が核兵器を持っている可能性があるということである。もちろん被害は日本にも及ぶだろう。
 朝鮮半島では、1994年にIAEAの核査察を北朝鮮が拒否したことによる核危機があった。クリントン政権の時のことである。カーター元大統領が訪朝し、なんとか核施設空爆を回避、対話の道を維持した。
 この時の状況を詳細に書き残した舟橋洋一「ペニンシュラ・クエスチョン」を、著者は「朝鮮半島第二次核危機は、北朝鮮の体制・アイデンティティー危機、世界の核状況危機、そして冷たいバルカンとなりつつある北東アジアの相互不信危機の重層的危機にほかならない」と締めくくった。朝鮮半島は現代の複雑怪奇なゴルディオスの結び目である。

 3月に来日したティラーソン米国務長官は「北朝鮮を非核化しようとする20年間の努力は失敗に終わった。脅威がエスカレートしており、新たなアプローチが必要だ」と述べた。1994年の核危機での米対応の否定である。これが、現代のアレキサンダーの剣にならないことを祈る。結び目は解ける所から解いてほしい。


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