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報道することの明と暗~映画「ニュースの真相」 [映画時評]

報道することの明と暗~映画「ニュースの真相」


 2004年の米大統領選。ジョージ・W・ブッシュは再選を目指していた。そんな折、ベトナム戦争の兵役拒否疑惑が持ち上がる。CBSイブニングニュースのアンカー、ウオルター・クロンカイトの跡を継いだダン・ラザー(ロバートレッドフォード)はすでにテレビジャーナリズムの巨人だった。彼がやはりアンカーを務める「60ミニッツⅡ」のプロデューサー、メアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)は、4年前にもこの疑惑を追ったが、モノにできなかった。今度も取材チームを編成、疑惑解明を急ぐ。関係者が一様に口をつぐむ中、一人の男がメモのコピーを提示する。それこそ、彼女が求めていたものだった―。
 何度もコピーを重ねて不鮮明なメモは、本物なのか。放送時間ぎりぎりまで、真偽をめぐる議論が続く。そして時間切れ。ベトナム戦争の兵役を逃れ、テキサス州空軍の訓練をもサボタージュしていたというブッシュの行状が、ダン・ラザーによって語られた。「これで大統領を追いつめることができる」。スタッフはだれもがそう思った。
 しかし、放送翌日、思いもしなかったことが保守系のブロガーによって指摘された。兵役逃れの根拠としたメモは偽物だったというのだ。根拠として、1968年から1973年までのものとされたメモが、当時なかったはずの「ワード」によって打たれたものであることを挙げていた。一転、CBSは守勢に立たされ、メモが本物であることを証明しなくてはならなくなった。しかし、何度もコピーされ不鮮明なメモを本物と証明するのは極めて困難だった。
 やがてCBSは独立委員会によって結論を得ようとする。当然、メアリーも召喚される。同伴の弁護士は、けっして反論しないよう忠告する。しかし、耐えに耐えたメアリーは最後の局面で持論を全面展開する。結果としてメアリーは解雇処分になる。そして、ダン・ラザーは、この事件を最後に、CBSイブニングニュースを降りる。
 メアリーが独立委員会で行った反論が興味深い。メモが本物であることの立証責任は報道した側にある、とする委員に対して、当時の用語、勤務形態、なにより当事者がメモを残していたことを知っていること、これらは真実だとする根拠にはならないのか。かつてのペンタゴン・ペーパーズ、ディープスロートはどうだったのか―。
 ダニエル・エルズバーグによって1971年に持ち出されたベトナム政策の国防総省機密文書、いわゆる「ペンタゴン・ペーパーズ」をニューヨークタイムスが掲載、司法長官は掲載差し止めを命令した。これに対してワシントン・ポストが掲載を引き継ぐ。当時、W・ポストの編集局内ではこんな議論があったという。「報道の自由を守る唯一の方法は、報道することだ」(D・ハルバースタム「メディアの権力」)
 それが100%真実だと確信できなければ報道できないのか。報道の最前線は、常にこのことを自問自答する。ペンタゴン・ペーパーズもウォーターゲート事件(大統領の陰謀)も、アメリカジャーナリズムの輝かしい金字塔である。最近公開された「スポットライト」はカトリック教会という強大な権力に挑むジャーナリズムを描いた。
 これらに比べると、「ニュースの真相」はジャーナリズムの後退戦を描いた作品である。真実を追求する闘いには、常にこうしたリスクが伴う、ということである。なお、ブッシュ自身の兵役逃れは実際にあったのかどうか。これが問題の本筋と思われるが、このことを問う前に文書の真偽に焦点が合わされ、最も重要な問題にはフタがされてしまった。権力側によるこうした手法は、外務省機密漏えい事件と似ていなくもない。
 この映画は、ブッシュをはじめ関係者を実名で登場させ、実写フィルムも交えている。この種の映画を日本で作った場合、これほど淡々と作れるかどうか。おそらく、「この映画はフィクションです」という断り書きが最後に入るのではないか。こんなところにも、日米のギャップを感じてしまう。2015年、アメリカ・オーストラリア合作。

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