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スポーツと政治」掘り下げが足りない~映画「栄光のランナー」 [映画時評]

「スポーツと政治」掘り下げが足りない


~映画「栄光のランナー」

 ヒトラーが国の威信をかけた1936年のベルリン五輪は今も史上最高の五輪だったと評価する向きもある。そのベルリン五輪に、米国の陸上選手として出場、四つの金メダルに輝いたジェシー・オーエンスのエピソードをからませたのが、この映画である。貧しい黒人家庭に生まれたオーエンス(ステファン・ジェームス)はオハイオ州立大に進学、陸上コーチのラリー・スナイダー(ジェイソン・サダイキス)に才能を見出される。1930年代の初め、極端な人種政策をとるヒトラーのもとでの五輪に対してボイコットの機運が高まる。米黒人地位向上委員会からも出場ボイコットの要請があり、オーエンスは悩むが、結局は純粋に競技に没頭することを選択する―。

 米国内での貧困と差別、ヒトラー政権下での人種政策への抗議、そうした問題とスポーツとの距離をどうとるかという、本当はシリアスなテーマだが、映画ではほとんど直線的にストーリーが展開する。このへんはアメリカ映画らしく、陰影はほとんどない。だから展開が容易に推測できる。

 当時、隆盛を極めたナチスドイツの国情についても、それほど掘り下げた跡はみられない。そんな中で何人かの人間像が印象に残る。一人はベルリン五輪の記録映画「オリンピア」の監督、レニ・リーフェンシュタール。彼女はヒトラーの命で「民族の祭典」「美の祭典」の2部構成計約100分の作品を完成させ、内外で高く評価されたが、戦後はナチスのプロパガンダに加担したとして映画界から追放された。とはいっても、宣伝相ヨゼフ・ゲッペルスとの確執など、必ずしもナチの路線に同化してはいなかったと見られているが、そうした微妙な位置関係も比較的正確に表現されている。

 もう一人は後にIOC会長になるいうブランデージ。ヒトラーと手を組み、ベルリン五輪開催に向け、大きな力になったといわれている。もともとIOC役員には親ナチ的な思想の持ち主が多く、ブランデージもその一人であった。近年ではスペインのファランフェ党にいたサマランチが知られる。五輪そのものがファシズムに親和性があると見る向きもあるぐらいだ。

 しかし、こうしたエピソードはあくまでも後景にすぎない。スポーツと政治というテーマを深く掘り下げればもっと今日的な共感が得られただろうが、オーエンスの人間性にも迫れず、何分にもストーリーが単調であった。米国の田舎出の黒人青年がヒトラーの鼻を明かした、といった類の浅薄な評が横行するのも残念なことである。独仏カナダ合作。

 リーフェンシュタールの生涯を映画化すれば面白いと思うのだが…。


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