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「三方一両損」の時代を受け入れよう~濫読日記 [濫読日記]

「三方一両損」の時代を受け入れよう
~濫読日記


「喪失の戦後史」(平川克美著)

喪失の戦後史.jpg 著者は1950年生まれ、文筆家で事業家。ほぼ戦後をリアルタイムで生きてきたといえる。その体験を踏まえ、戦後史を振り返った。大きな特徴は、経済ではなく人口動態を指標としながら家族観の変遷を探ったところにある。著者の言葉を借りれば、人口動態から入って家族に抜ける、という手法である。ネットで行った100分講座6回分を再編成した。

 全体は5編に分けられ、前半は小津映画に見る家族の風景や占領下の家族形態を取り上げ、高度経済成長の時代へと移る。著者の見識がよく表れているのは、高度経済成長期以降、即ち1973年以降の日本に対するまなざしであろう。この時代を取り上げた「第四講 相対安定期の夢」には「『あしたのジョー』から『釣りバカ日誌』の時代へ」と副題がつく。「あしたのジョー」の連載は1973年に終わった。ジョーは米国のボクサー、ホセ・メンドーサとの闘いの最中、リング上で「燃え尽きて」しまう。このシーンに著者は、戦後、焼け跡から立ち上がり、世界、特に米国と伍するまでに経済成長した日本の姿をだぶらせる。経済成長を遂げた日本もまた、1973年に「燃え尽きた」のである。そして「釣りバカ日誌」が1979年に始まる。ヒーローの時代からアンチ・ヒーローの時代へと転換した。

 著者はここで、家族の変遷に目を向け、1世帯当たりの人数に注目する。データによると、1955年に4.97人だった家族構成は1975年に3.48人、1995年に2.85人となる。いまや、夫婦2人に子供は1人もいない。少子化、人口減少傾向は顕著である。では、どうすればこうした傾向に歯止めがかけられるか。三世代同居を増やすために補助金を出すという政策が報じられたが、著者はこれを無意味と断じる。なぜなら、こうした家族形態の変化は貧困によってではなく、歴史の進歩の過程で起きたことであり、逆流することはないという。例えば、経済政策によってではなく、婚外子を正嫡子と同等に認める(法律婚の否定)など、従来とは別の共同体形成が必要だという。

 もう一つ、社会的な変化としてコンビニの出現を上げる。1号店は1974年に豊洲にできた。以来、瞬く間に増殖して、2015年で全国5万店というデータもある。いうまでもなく、これも家族形態に大きな変化をもたらした。あるいは、家族形態が変化したためにコンビニが増えたのかもしれない。つまり、家族という共同体の中で役割分担しなくても、カネさえあれば不自由なく生活できる社会システムができた。世間はこれを「個食の時代」と称した。

 著者はさらに「長期デフレ」という経済認識にも異議を唱える。今起きていることを人口動態から見れば、縮小均衡という経過的な状態だという。経済成長につながる有効な政策が打てないから問題なのではなく、経済の縮小を前提にした方向へとかじを切れないでいることが問題なのだと著者は言う。経済成長なしの社会モデルをどう作るか。「三方一両損」の時代を受け入れるべきだというのが、著者の認識である。

(東洋経済、1500円=税別)


喪失の戦後史

喪失の戦後史

  • 作者: 平川 克美
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2016/08/26
  • メディア: 単行本