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現代の平和論を組み立てる手がかりに~濫読日記 [濫読日記]

現代の平和論を組み立てる

手がかりに~濫読日記

「教養としての戦後〈平和論〉」(山本昭宏著)

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  まず、タイトルについての考察。「教養としての」という言葉が冒頭につく。著者自身の考えはこうだ、というものではなく一歩引いた形で、しかもできるだけウィングを広げてテーマについてまとめた、ということであろう。そして、平和論に〈 〉がつけられている。これは「〈平和〉論」ではなく、「〈平和論〉」であるという意味合いと理解する。言い換えれば、〈平和〉という概念そのものの変化ではなく〈平和〉についての〈論〉の変化を追った書であると理解できる。
 著者は1984年生まれ。2012年に20代の若さで「核エネルギー言説の戦後史19451960」を著した。福島原発事故直後でもあり、「原爆」と「原発」をつなぐ書として注目された。手法としては、これに連なるともいえる。テーマを「核」から「平和」に置き換え(あるいは拡大し)、時間的スパンも「戦後」全体に伸ばした、それがこの書であろう。
 著者も書くように、いま「平和」という言葉を口にするとき、どこか「気恥ずかしさ」を感じる。同時に、「平和」という言葉が一種の空洞(もしくは空疎な何か)を抱えていることを実感する。これは何か、なぜそうなったかを追った書である。といっても、「それはこうしてこうなったからだ」と書いているわけではない。一歩引き下がり、読者に考える手がかりを与える、そういう位置づけの本である。最初に言ったように、それが「教養としての」とタイトル冒頭に振った所以であろう。
 著者はまず、「平和」の内実に迫る道筋として「理念としての憲法」「戦争の記憶」「生活保守主義」を念頭に置きつつ①敗戦~1960年②196070年③70年初頭~80年代終わりまで④80年代の終わりから現在―と時代を4区分する。前者が横糸、後者が縦糸といってもいい。この構造をさらにくくって言えば、米ソ冷戦が影を落とした時代は日米安保と非武装中立という対立軸があり、自社さ政権が成立した1990年代に「総保守化」時代があり、それが安倍政権による「平和」の書き換え(=構造変革)の中で安倍対反安倍(リベラル)という新しい対立軸が生まれつつある、ということになろう。それは「平和」の構造変化であるとともに、「戦争」の構造変化でもある。つまり、平和をめぐる意識の中で「生活保守」の色彩が濃くなり、貧困もまた現代の「戦争」の一つではないかという指摘である。もちろん背景には、かつての「戦争」(アジア太平洋戦争)の体験者が減り、国民的記憶が薄れてきたことがある。
 こうしたことを踏まえ、いくつか印象に残った点を挙げよう。
 ①広島・長崎の反核「平和」運動が、日米の国家原理の追認に他ならないのではないかという小田実の指摘。広島・長崎は、米国の投下責任を明確に問うことでしか「人は人を殺してはならない」とういう普遍原理を見につけることはできない、という議論。これは今も有効性を持つと思う。
 ②野口武彦が、ある種の「文学的直観」をもって指摘した「観光地平和公園(注:長崎の)の端麗なパノラマ」をみて「われわれが享楽しているこの『平和』は、どこかに或るゆるしがたい欺瞞をふくんでいる」とした文章。広島・長崎が「観光地」として消費されていくスピードは近年ますます加速しているようにみえる。
 ③「厭戦」から「泣ける作品」へ~「火垂るの墓」をめぐる時代的変遷。野坂昭如は「火垂るの墓」(1967年)で、戦時下の兄妹の「無意味な死」を描いた。それは小田実の「難死の思想」にも通じる。戦争で死ぬことは美しいことでも崇高なことでもない。だから野坂は、意思に支えられた「反戦」より弱者の利己的な「厭戦」こそが、戦争を回避するためのエネルギーになると思ったはずだ。ところが、ジブリによるアニメ「火垂るの墓」(1988年)は、快・不快を行動の基準にする若者像をベースに物語をつくりかえた。ここでは、戦禍による「難死」ではなく兄妹の哀しく哀れな物語に仕立てられている。だからこそ、観た若者たちは「泣ける」映画だと受け止めた(2005年に30代、40代を対象にアンケートしたところ、「泣ける映画」の女性1位、男性2位が「火垂るの墓」だった)。
 こうした〈平和論〉の変遷を踏まえ、私たちはどのような〈平和論〉を組み立てていけばいいのか。少なくとも、日米安保と自衛隊(国防軍)が日本の平和を守るという一元的発想でいいのか。それを考える手がかりになるだろう。


 「教養としての戦後〈平和論〉」はイーストプレス、1500円(税別)。著者は神戸外大准教授。日本近現代文化史、歴史社会学。

教養としての戦後<平和論>

教養としての戦後<平和論>

  • 作者: 山本昭宏
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2016/08/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)