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悲劇の地の愛のかたち~映画「灼熱」 [映画時評]

悲劇の地の愛のかたち~映画「灼熱」

 民族のジグソーパズルといわれたユーゴは1943年の独立以来、チトーという稀有の指導者によって辛くも保たれた。1980年にチトーが亡くなり、1989年にベルリンの壁が崩壊してユーゴ共産党の屋台骨が揺らぐと、パズルのピースが散乱するのは早かった。ユーゴは五つの民族の寄せ集めといわれたが、中でもクロアチアとセルビアの反目は激しかった。底流には第二次大戦中、クロアチア人によるナチ傀儡政権が、ユダヤ人だけでなくセルビア人の虐殺を行ったことがあるとされる。1991年、クロアチアがユーゴからの独立を宣言。彼らの居住地域の少数派だったセルビア人は危機感を強めた。クロアチアとセルビアの悲惨な紛争が起き、95年まで続いた。
 映画は、こうした時代背景の中で三つの物語を紡ぐ。一つは1991年。紛争直前のアドリア海沿岸で引き裂かれたセルビア人の娘イェレナとクロアチアの青年イヴァン。二つの村の境界線にはセルビア人が作った検問があった。ザグレブ(現在のクロアチアの首都)へと向かう計画を立てた二人だが、イェレナは家族に引き戻される。彼女を取り戻そうとしたイヴァンに悲劇が起きる。
 二つ目は2001年、紛争後のクロアチア。セルビア人の母とその娘ナタシャが荒れ果てた自宅に戻る。クロアチア人の若者アンテに修理を頼むが、お互い紛争の憎しみと心の傷は消えることがない。そんな中でアンテとナタシャはひかれあう。
 三つ目は2011年、ほぼ現代といえるクロアチア。帰郷した大学生のルカは、かつてのセルビア人の恋人マリヤを訪れる。紛争のさなか、ルカは身ごもったマリヤを捨てた過去を持つ。許しを乞うが、「もう終わったの」と冷たくされる。一晩、享楽の中に身を置いたルカは、再びマリヤのもとを訪れる。
 3編の中で、特にこの編の終わり方がいい。語りすぎず、伝えるべきものを伝えている。
 旧ユーゴは、世界でも例を見ないほど悲惨な戦いの地だった。戦う相手は、昨日までの隣人だった。それだけに心に残った傷は深い。悲しみ、憎しみ、絶望。それを癒やすものは、愛しかない。そんなメッセージが伝わってくる。アドリア海のきらめく光が、この地の持つ悲劇性を際立たせる。
 3編とも男性をゴーラン・マルコヴィッチ、女性をティハナ・ラゾヴィッチが演じた。2015年、クロアチア、スロベニア、セルビア共同製作。監督・脚本ダリボル・マタニッチ。


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