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まぎれもなく佐藤泰志の世界~映画「きみの鳥はうたえる」 [映画時評]

まぎれもなく佐藤泰志の世界~

映画「きみの鳥はうたえる」

 

 函館出身の作家佐藤泰志の同名小説を映画化した。この作品を含め、佐藤は5度にわたり芥川賞候補となった。しかし、芥川賞はとれないまま、1990年に41歳で自死した。「きみの―」を「文藝」誌上に発表したのは81年、32歳の時。題名はビートルズの曲名「And Your Bird Can Sing」からと思われるが、作者の意図は分からない。

 原作は80年ごろの東京を舞台に、二人の男と一人の女性の揺れる人間関係がモノローグを主体とした文体で繊細に語られる。このうち「80年ごろの東京」は、映画では現代の函館に置き換えられた。したがって映画としては「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」(いずれも佐藤原作)に続き、函館シリーズを形成するに至った。

 佐藤は「80年ごろ」の空気を醸すため「チャーリー・ミンガスの追悼コンサートをやったジャス喫茶」などを背景に置いた。また「僕」と同居する静雄が部屋に転がり込む際、持ってきたものが布団とビートルズのレコードだけだったという記述が原作にはあり、これも「80年ごろ」の空気の一端となっている。しかし、これらは映画では時代を転換させたことで自動的にカットされたと思われる(ミンガスの代わりにラップミュージックが登場する)。

 「僕」(柄本祐)は書店の店員をしているが、静雄(染谷将太)は無職だ。したがって、生活は貧しい。そんな部屋に、「僕」と同じ書店で働く佐知子(石橋静河)が訪ねてくるようになった。二人の男と一人の女の微妙な関係が始まった。彼女と最初に肉体関係を持ったのは「僕」だが、そのうち静雄とも濃密な関係を持つようになる…。

 「夜空はいつでも最高密度の青色だ」で、都会の若者の孤独と不条理への恐怖感をみごとに演じた石橋静河は、この作品でも存在感のある「ミューズ」をすばらしく演じた。というより、石橋の存在感がなければこの作品は成り立たないと思える。

 原作では終盤、ある事件をきっかけに、3人の幸福ともいえた時間の流れに亀裂が入り物語は終わるのだが、映画では、ラストは大胆に転換されている。これを監督・脚本を手掛けた三宅唱の手腕と見るか。私は、3人の間を振り子のように揺れる心理にテーマ性があり、だからこそ、佐知子に決着をゆだねるかのような終わり方でなく、原作のような「強制シャットダウン」がいいように思うが…。

 いずれにせよ、敗者たちの優しさと、そこから立ち上る希望のにおいと暖かさ、という佐藤泰志の「味わい」は健在である。そして、あるのはやはり、佐藤が生きた70年代の青春であろう。「海炭市叙景」を手掛けた函館のシネマアイリスが企画し、2018年に製作された。

 

君の鳥は.jpg

佐藤泰志作品集

佐藤泰志作品集

  • 作者: 佐藤泰志
  • 出版社/メーカー: クレイン
  • 発売日: 2007/10/10
  • メディア: 単行本

 


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