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民主主義の限界と「無邪気なファシズム」の登場~映画「華氏119」 [映画時評]

民主主義の限界と「無邪気なファシズム」の登場

~映画「華氏119

 

 米中間選挙の結果が報じられた11月7日午後、マイケル・ムーア監督の「華氏119」を見た。題名はトランプ大統領が勝利宣言をした2年前の119日から来ている。中間選挙の結果はトランプ政治の是非という観点からみると、微妙なものだった。2年後、トランプ再選はあるのか。ちなみにいえば、ムーア監督がジョージ・W・ブッシュ大統領批判を展開した「華氏911」(いうまでもなく「911」に由来する)にもかかわらず、ブッシュは再選された。

 映画は、ヒラリーが女性初の大統領になるとの見方が圧倒的だった2016年の大統領選の経緯から入った。その中で、マイケル・サンダース候補の選挙結果を改ざんしたのではないか、と指摘した。大統領選がサンダースvsトランプとなっていれば、極めて象徴的な戦いになったことは容易に想像がつく。従来の民主主義の枠からはみ出た、いわば規格外の二人が争うことになっていたからだ。しかし、実際はそうはならず、大方の予想を裏切って「エスタブリッシュメント」を代表するヒラリーが敗れ、例を見ない(異形の、といってもいい)トランプ大統領が誕生した。

 この結果は何を意味するのか、ということをムーア監督はさまざまな映像を使って問いかけた。社会民主主義者サンダースはなぜここまで支持されたか。民主主義の破壊者ともいえるトランプはなぜ大統領になりえたか。ムーア監督はトランプ勝利を予測していたと伝わる。その根拠は「ラストベルト」(ペンシルベニア、オハイオ、ミシガン、ウィスコンシンの4州。これまで民主党の牙城とされた)の遊説をヒラリーが軽視し、トランプが重視したことによる、と指摘する。彼はミシガン州フリントの出身である。挿入されたフリントの水源問題(ヒューロン湖からフリント川に切り替えたため住民に鉛中毒が発生した。シュナイダー・ミシガン州知事の失政)は象徴的である。この問題に関して、オバマ大統領は無力であった。プア・ホワイトは、トランプに救済を求めたのである。映画ではペロシ下院院内総務に、18歳から29歳の若者が社会主義を支持しているがどう見るか、との質問が飛び、困惑顔のペロシが「我々は資本主義を選択している」と答えにならない返答をする場面があった。これらが指摘するのは、民主主義の明らかな限界だ。背後には拝金主義、政治の退廃がある、とムーアは言う。

 映画の後半には、ナチスドイツの映像がかぶさる。トランプが目指すものは、かつてのようなファシズムなのだ、といっているようだった。多くの人がこの映像を見て同じことを思い、戦慄したのではないか。ところが、ムーア監督はこの見方を否定する。トランプがもたらすものは「強制収容所」や「カギ十字」に象徴されるものではなく、テレビ番組に出てくる笑顔が作り出す「笑顔のファシズム」だという(11月8日付朝日)。

 イタリアの作家ウンベルト・エーコは「永遠のファシズム」(岩波書店)で、ファシズムは「構造化された混乱」だとし、複数の要素を持つが一つとして同じ形態はない、といった。そのうえで、こう書いた。

 ――いまの世の中、だれかがひょっこり顔を出して、「アウシュビッツを再開したい、イタリアの広場という広場を、黒シャツ隊が整然と行進するすがたをまた見たい!」とでも言ってくれるのなら、まだ救いはあるかもしれません。ところが人生はそう簡単にはいかないものです。これ以上ないくらい無邪気な装いで原ファシズム【注】がよみがえる可能性は、いまでもあるのです。

 「トランプ現象」の本質を言い当てている。

 

【注】ファシズムはひとつの特徴でくくれるものではなく、いくつかの特徴が非整然と組み合わさったものだと、エーコは言う。そこで、典型的特徴を列挙したうえで、そのいくつかを備えたものを「原ファシズム(Ur-fascismo)」もしくは「永遠のファシズム(fascismo eterno)」と呼んだ。

 

華氏119.jpg


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