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正統と異端を考える~映画「ピアソラ 永遠のリベルタンゴ」 [映画時評]

正統と異端を考える~
映画「ピアソラ 永遠のリベルタンゴ」

 

 タンゴに格別の素養があるわけではないが「リベルタンゴ」は知っている。あの現代的で煽情的な旋律を作曲したアストル・ピアソラ(1921-92)のドキュメンタリーと聞いて、観に行った。

 ブエノスアイレスの避暑地マル・デル・プラタで理髪店を営み、マフィアとも付き合いがあったという父ビセンテ(愛称ノニーノ)。やがて一家はニューヨークに移住する。極貧の中、中古のバンドネオンを与えられたアストル・ピアソラは8歳のころからタンゴに親しむ。アルゼンチンに帰ったピアソラはあるコンクールでの作曲賞受賞がきっかけでフランスに留学。クラシックにのめりこむが、作曲家ナディア・ブーランジェからタンゴの道に進むべきだと助言される。

 ニューヨークで聞いたジャズやフランスで学んだクラシックの要素も取り入れたタンゴは革新的だったが、踊るタンゴではなく聴くタンゴだった。そこで、これはタンゴではないとする非難の声が沸き上がった。そのころ父を亡くしたピアソラは「アディオス・ノニーノ」を世に出す。悲嘆の中、わずか30分で書き上げたという。

 観終わって、正統と異端ということを思った。ピアソラのタンゴは当初、異端と受け止められたのだろう。しかし今や、彼のタンゴこそ正統ではないか。正統とは単に伝統を墨守することではない。「生き残るためには変わらなければならない」という言葉もある【注】。まさしくタンゴを生きのびさせるためにタンゴを変えた、一人の作曲家の生きざまが見えるようだ。

 監督はドキュメンタリーの達人ダニエル・ローゼンフェルド。作品はピアソラの息子ダニエルや娘ディアナ(故人、ピアソラの自伝を書いた)の証言や古い映像、写真を組み合わせた。サメ釣りを趣味としたピアソラの「タンゴ演奏もサメ釣りも同じだ。どちらも背筋が必要だ」というコメントが面白い。ピアソラがフランスに留学した1954年ごろはアルゼンチンのペロン政権末期にあたり(反ペロンの軍事クーデターは55年)、そうした世情不安もこのころのピアソラに影響していたのかもしれない。それにしてもブエノスアイレスの街角の、なんと郷愁に満ちて美しいことか。

 

【注】「山猫」(トマージ・デイ・ランペドーサ著、岩波文庫)。「すべて現状のままであって欲しいからこそ、すべてが変る必要があるのです」(小林惺訳)

 


ピアソラ.jpg

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