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いやらしくも重い共同体の存在感~映画「誰もがそれを知っている」 [映画時評]

いやらしくも重い共同体の存在感~
映画「誰もがそれを知っている」

 

 スペインの小さな村。結婚式のため移住先のアルゼンチンから帰ってきた一家に事件が起きる。

 と書けばサスペンスのようだが、映画全編の通奏低音は心理ドラマである。危機に陥ったとき、人はどう反応するか、そんな人間の根源を見つめた作品である。それもそのはず、監督は「別離」や「セールスマン」で繊細な心理描写を見せたアスガー・ファルハディ(イラン)である。

 ラウラ(ペネロペ・クルス)は妹の結婚式のため娘イレーネ(カルラ・カンプラ)と息子ディエゴを連れ、はるばる帰ってきた。祝賀ムードの中で事件は起きた。イレーネが誘拐されたのだ。ほどなく身代金30万ユーロを払えとメールが届いた。ラウラの夫アレハンドロ(リカルド・ダリン)も駆けつけるが、彼はアルゼンチンで成功したとの風評をよそに、失業の身だった。身代金など払えるはずがなかった。

 誘拐犯はなぜ、扱いやすいはずの幼いディエゴよりイレーネを狙ったのか。身代金を取る見通しはあったのか。謎は深まった。

 ラウラにはかつて恋人パコ(ハビエル・バルデム)がいた。彼はアレハンドロとラウラから土地を譲り受けブドウ園に改良、ワインの醸造で成功していた。彼ならブドウ園を売りさえすれば身代金を払うことができた。そして実は、彼こそがイレーネの父親だった―。

 誘拐は、イレーネの父親が誰かを知っている人間が企てたのだった。いったい、それは誰なのか。

 ラウラがイレーネを生むと決めた時、アレハンドロは永久に二人だけの秘密にしておこうと考えた。しかし、誰かが知っていた。それは誰か。アレハンドロはそれとなく周囲に聞いてみた。答えは、愕然とするものだった。イレーネの父親が誰か、村のみんなが知っている―。

 本音と建前が入り組み、隠しておきたい秘密が白日にさらされる。共同体のいやらしくも重い部分が、この映画では描かれる。そして、最後に犯人は明らかになる。

 最後まで見ていくとこの映画は実は、心理の奇妙な逆転劇の上でストーリーが組み立てられていることが分かる。ラウラはパコを捨てアレハンドロと新天地に向かった。それをラウラの残った家族たちはどう見ていたか。そして村人は。イレーネの出生の秘密を共有していた村人の心にひそむ、ラウラとアレハンドロを貶めたいと思う気持ちが事件を引き起こしたと、ファルハディ監督は言いたかったに違いない。冒頭、ラウラとイレーネを迎えた村人たちの奇妙にわだかまった表情がそれを物語っているように思える。

 2018年、スペイン、フランス、イタリア合作。


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