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事件から半世紀、謎は謎のまま~映画「眠る村」 [映画時評]

事件から半世紀、謎は謎のまま~映画「眠る村」

 

 名張毒ぶどう酒事件を取り上げた東海テレビのドキュメンタリー映画。三重と奈良の県境にある集落、葛尾。1961年、ここで事件は起きた。村の懇親会(両県の最初の一文字をとって「三奈の会」)でぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡したのである。6日後、村の奥西勝が犯行を自白、逮捕された。

 しかし、奥西はその後、犯行を否認、津地裁は無罪判決を下した。名古屋高裁は一転、死刑判決。最高裁もこれを支持し、死刑が確定した。2005年、高裁で再審開始決定が出たが翌年、取り消された。奥西は2015年、八王子医療刑務所で死亡。死後も含め、10次にわたる再審開始請求が出たが、ついに再審の門は開かなかった。

 物証はほとんどない事件といわれた。そんな中で、いくつかの新証拠が出た。奥西はぶどう酒入りの瓶の王冠を歯で開けたと自供したが、その後の鑑定では奥西の歯型と違っていた。瓶の口の封冠紙は一度はがされ、製造時とは違う糊で貼られていたことも分かった。「農薬を会場で入れた」という自白内容を揺るがす材料だった。入れたとされた農薬の成分も、鑑定では検出されなかった。

 疑問はまだある。ぶどう酒の購入時刻である。当初、購入は午後2時過ぎとした証言は奥西の逮捕後、会が始まる直前の午後5時ごろに変わった。当初の証言通りだと約3時間、ぶどう酒は三奈会の会長宅に置かれたことになる。なぜ証言は変わったのか。

 謎は依然、謎のままである。

 そして最大の謎は、なぜ司法は後に奥西が否認した当初の自供にすがって死刑判決を出し、その後の新証拠に目もくれなかったか、である。

 「奥西しかいない」とつぶやく村人。無念の表情を浮かべる奥西の妹、美代子。重苦しい沈黙の底に眠る村、葛尾。しかし、ここで仲代達也のナレーションは、明らかに司法に向けられている。「眠る村」とは…。非科学的な自供にすがり、科学的な証拠に目をつぶる司法のことだ、と。
 2018年、ドキュメンタリーの王道を行く作品。


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