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思いがけず知る権力の蜜の味~映画「ちいさな独裁者」 [映画時評]

思いがけず知る権力の蜜の味~映画「ちいさな独裁者」

 

 1945年4月のドイツ。ということは、敗戦まで1カ月の戦線。軍紀は乱れ、脱走や略奪が横行していた。ヴィリー・ヘロルト(マックス・フーバッヒャー)も命がけの脱走を試みる。その最中、路傍に打ち捨てられた軍用車内に将校の軍服を見つける。着てみると、小柄なヘロルトにはズボン丈が余った。

 階級章から、軍服の持ち主は大尉のようだ。そのときから、ヘロルトは大尉に成りすます。訪れたのは脱走や略奪を行った兵を収容する犯罪者収容施設。軍紀の乱れから収容者が溢れかえり、対応に困っていた。総統の命を受け前線の状況を視察している、と嘘をでっち上げたヘロルトは思いがけず権力者の蜜の味を知る。

 収容された兵90人を問答無用で処刑したヘロルトは、冷酷無慈悲であるが有能な将校と周りから見られた。そのままヘロルト親衛隊を結成、権力を意のままに操る…。

 軍服とともに手に入れた「借り物の権力」を武器に独裁者へと成り上がるさまを、処刑シーンも含めて映画は徹底的にリアルに描く。ここで、例えば喜劇タッチにしてみたり、教訓めいたものを抽出したり、という作業は行われない。実話に基づくというストーリーは、驚愕の、というより奇跡に近い。

 映画の後半、ヘロルトが実は上等兵であったことが明らかになる。想起されるのは、ヒットラーが政治の表舞台に躍り出た時「ボヘミアの上等兵」と侮蔑を込めた視線で語られた逸話だ。正統性を持たない権力者が歴史の舞台で成り上がる。そうした意味では、ヘロルトもヒットラーも変わりない、とこの作品は語っているようだ。

 そしてヘロルトが繰り返す数々の蛮行は、ナチズムが持つ「ならず者」の本質に通じているようにも見える。それは、戦中の日本の軍国主義者たちが持ち合わせていたそれに通底するかもしれない。そう考えると、なかなか奥深い映画である。

 2017年、ドイツ、フランス、ポーランド合作。原題「Der Hauptmann」はズバリ「大尉」。監督は「RED レッド」のロベルト・シュベンケ。

 

ちいさな独裁者.jpg


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