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「永続敗戦」を近代史に位置づけ~濫読日記 [濫読日記]

「永続敗戦」を近代史に位置づけ~濫読日記

 

「国体論 菊と星条旗」(白井聡著)

 

政治の崩壊と大衆のニヒリズム

 昨今の政治を見て思うことが二つある。それは、「異様」といってもいい状況のことである。

 一つは、あまりにもバカげた言説が国会を中心にまかり通ること。そして、そのことに世論がほとんど無反応であること。

 例えば、愛媛県の報告書で、加計学園理事長が20152月に安倍晋三首相と面会、獣医学部新設構想を説明したところ、首相が「いいね」と答えたとされたが、加計学園側が事実ではないと否定、学園側による作り話だったとしたことなど代表例である。事務方の「思いつき」ででっちあげられたことになっているが、まともに信じる向きがいるとも思えない。加計学園のトップと一国の首相が会ったというフィクションを事務方が口から出まかせにしゃべり、しかも首相のセリフまででっちあげたということがありうるだろうか。メディアの世論調査では「納得がいかない」とする声が7~8割を占めている。当然だろう。

 こんな身内びいきを恥も外聞もなく行う安倍政権は即刻退場を、と世論が思っているかというとそうでもなく、内閣支持率は悪くて3割台の後半、調査によっては4割台の前半である。

 これはいったい、何を意味しているか。

 政治の舞台で繰り広げられる三文芝居に国民は飽き飽きしている、言い換えれば、政治に期待するものは何もない、そういっているのではないか。期待しない分、不支持にも回らない。今の政治・政権は否定するにも値しない。そういっている気がする。大衆の心に宿るのは、究極のニヒリズムである。

 

 対米盲従の異様さ

 もう一つは、現政権の米国盲従路線の異様さである。それは、昨年後半に頂点に達したトランプ米政権の軍事路線傾斜に対して、安倍政権が「100%支持する」と言明したことに象徴される。朝鮮半島有事の際、日本は米国と運命を共にするといったに等しい。なぜそこまで、日本は米国に身も心も捧げなければならないのか。

米国盲従は、原発政策にも表れている。2011年の福島原発事故は日本の国土に修復不能な被害を与えた。事故を契機に日本のエネルギー政策は180度変わるべきであったが、そうはならなかった。3月に経産省がまとめたエネルギー基本計画でも、2030年の電源構成は原発が2022%を占める。これは2011年以前より微減という水準で、ドラスティックな転換というに値しない。少なくとも「脱原発」は選択肢から外された。ここまで原発に縛られている背景には、今夏改定予定の日米原子力協定がある。つまり、米国の意向だ。

長めに今日の政治状況を展開したが、それは白井聡の「永続敗戦論」(太田出版、2013年)の状況認識がピタリとはまると思うからだ。日本の保守勢力は、アジア・太平洋戦争での敗戦を否認(憲法を押し付けとして拒否することもその一つ)することで、敗戦の恒久化を図っている。それは対米従属の永続化につながり、現下の政治の空洞化につながっている。これが「永続敗戦論」の認識だったと理解する。

 

 保守の思想に切り込む

 白井の新著「国体論」も、大枠では「永続敗戦論」と基本的には変わるところがない。新たに付け加えられたのは、平成の終わりに際しての天皇の「言葉」、明治維新から150年という近代史の里程標(メルクマール)という二つの要素である。特に明治150年という里程標は、昭和20年8月15日が時間スケールのほぼ真ん中にあることから(それだけではないが)、「敗戦」を区切りとして前半、後半に分けるという作業が行われ、そこに「永続敗戦論」でも言及があった「国体」概念を基軸に据えながら近代史そのものを再編しなおす、という作業と論考が行われた。

 したがって、「国体論」自体は新たな知見が盛り込まれた、というものではない。戦後体制を、天皇を媒介としたワシントン=国体とする見方も、「永続敗戦論」で言及された。「永続敗戦論」で見せたひらめきを、近代史論の中で全面展開させた、と読むのが正しいように思う。したがって、明治150年を契機としてさまざまに書かれている近代史論の1バージョンと読むのがいいのではないか。

 そんな中で、印象を思いつくまま書けば、北一輝の国体論の位置づけ、三島由紀夫事件の意味、GHQ主権論への言及などが丹念な仕事であったように思う。中島岳志によるアジア主義、超国家主義の見直し作業が近年行われているが、保守の思想に切り込んだ白井のこの仕事もまた、同様の評価が与えられてしかるべきと思う。

 集英社新書、940円。


国体論 菊と星条旗 (集英社新書)

国体論 菊と星条旗 (集英社新書)

  • 作者: 白井 聡
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2018/04/17
  • メディア: 新書

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